「月次決算×システム統合」で変わる業務効率とは

広告業界では、月次決算業務のスピードと正確性が経営判断の重要なカギを握ります。本記事では、会計・営業・管理業務の分断による非効率をシステム統合により解消し、業務標準化・経営可視化を実現する方法を、具体事例を交えて解説します。
1. 広告業界における業務効率化の重要性
近年、広告業界全体で業務効率化の必要性が急速に高まっています。デジタル化の加速、市場競争の激化、クライアントニーズの多様化により、業務フローがかつてないほど複雑化しており、従来の属人的なアナログ業務では対応しきれなくなっているのが実態です。特に、経理・財務部門を中心としたバックオフィス業務においては、業務の重複や情報の分断が深刻であり、これを解消するための組織的な対策が求められています。
1.1 広告ビジネス特有の業務負荷
広告業界は、案件単位での原価管理、メディア発注と請求のタイムラグ、下請業者との三者取引といった独自の商習慣が多く、これが業務効率を著しく阻害しています。クライアントごとに異なる成果指標(KPI)や支払い条件、柔軟なスケジュール変更にも対応しなければならず、毎月の案件処理には多大な人的リソースが必要とされるのが現状です。
1.2 月次決算対応における人的負担
広告代理店では、多くの取引先や関係各所との照合作業が月次決算時に集中し、確認作業や伝票処理に長時間を要するケースが少なくありません。さらに案件が複数のメディアや担当者に跨ることで、リアルタイムに収支状況を可視化するのが困難となり、部門間での情報共有不足によって重複処理やミスが頻発する傾向があります。
1.3 人的ミスのリスクと管理責任の増加
エクセルやメールベースのアナログ管理では、人的エラーや入力ミスが避けられず、結果として財務数値の正確性を損なうリスクが高まります。特に月次決算にかかわるデータ連携に遅れが出ると、経営判断の遅延や資金繰りへの影響も懸念されるため、システムによる自動化とプロセス統合が急務とされています。
1.4 クライアント対応のスピードと正確性の両立
現代の広告取引はスピードが命です。クライアントからの対応スピードが遅れると信頼低下につながり、競合他社に案件が流れる可能性もあります。そのためには、案件管理と経理処理が一元化されたシステム基盤により、見積作成から支払い処理までを一気通貫で行う体制づくりが不可欠です。
1.5 業務効率化による従業員満足度と生産性の向上
業務が煩雑かつ属人的であればあるほど、社員の残業時間やストレスも増加します。反対に、定型業務をシステムで自動化し、クリエイティブや顧客対応といった本来重視すべき業務に集中できる環境が整えば、従業員満足度の向上と離職率の低下にも直結します。
1.6 広告業界における業務効率化の影響一覧
対象業務領域 | 従来の課題 | 効率化による改善効果 |
---|---|---|
経理・会計処理 | 手作業・伝票処理中心、締め作業の属人化 | 自動仕訳・マルチ部門対応による決算早期化 |
案件管理 | プロジェクト進捗・収支状況の分断 | リアルタイム連携による的確な業績把握 |
メディア発注・支払管理 | タイムラグと情報錯綜、請求・支払の二重チェック | 一元管理でミス防止・工数削減 |
社内情報共有 | エクセル・メールに依存、閲覧性が低い | クラウド環境での可視化と同時並行作業が可能 |
人材リソース管理 | 一定期間に業務が集中し、残業が慢性化 | 繁忙期分散と工数削減で生産性向上 |
このように、広告業界では業務構造の変革なくして持続的成長は望めません。システム統合による業務効率化こそが、競争力を左右する重要な投資判断となってきているのです。
2. 月次決算の仕組みと広告業界での課題
2.1 月次決算とは何か
月次決算とは、企業が1か月ごとに収益や費用、利益といった経営数値を集計し、財務の状況を確認する会計処理のことを指します。一般に年度末だけでなく、経営判断の迅速化や現場の業績把握のために定期的な財務報告が必要とされており、月次決算はその基礎となるプロセスです。
月次決算に含まれる主な作業は以下の通りです。
作業項目 | 内容 |
---|---|
売上集計 | 請求済売上、未請求売上の把握 |
経費計上 | 交通費・外注費などの経費精算と記帳 |
仕入・外注費の原価把握 | 媒体費・代理費などの仕入原価計上 |
未収入金・未払費用の確認 | 発生主義に基づいた見越処理 |
貸借対照表・損益計算書の作成 | 月次試算表として出力・確認 |
このような処理を経ることで、企業は毎月の利益状況や財務健全性を把握し、問題の早期発見や予実管理に活かすことが可能となります。
2.2 広告代理店における月次処理業務の実態
広告業界では、一般的な業種よりも月次決算業務が複雑で手間がかかる傾向にあります。主な要因としては以下のような点が挙げられます。
- 案件ごとの収支管理や原価計上の必要性
- 広告出稿と費用発生のタイミングのズレ
- 媒体社やパートナー企業との特殊な請求・支払スキーム
- 営業・制作・媒体部門による情報伝達の非統一性
とりわけ広告代理店では、1つのプロジェクトに対して複数の外注先、媒体社、クライアントが関わるため、売上・原価のトラッキングが煩雑になります。また、請求書の発行や入金確認も未統合のExcelベースで行われているケースが多く、業務の属人化や二重入力によるミスが頻発しやすい状態となっています。
2.3 月次決算が遅れることによる経営への影響
月次決算が滞ると、経営者が現状を正しく把握できなくなり、事業判断のタイミングを逸する恐れがあります。特に広告業界のようなプロジェクト型の事業体では、以下の点で大きなリスクとなります。
リスク項目 | 具体的な影響 |
---|---|
収益管理の不備 | 赤字プロジェクトの発見が遅れ、継続的な損失が発生する |
キャッシュフロー管理の遅延 | 請求漏れや回収遅れによる資金繰りの悪化 |
意思決定スピードの低下 | 売上低迷や費用過多への対応が後手に回る |
部門間の責任所在不明 | 数値に対する納得性や信頼性が低下し、組織的なモチベーションを損なう |
特に昨今のように市場動向が目まぐるしく変わる状況下では、リアルタイムでの財務把握とKPI管理が不可欠になります。月次決算の遅延は、成長戦略の妨げや損益管理の失敗にも直結するため、喫緊の改善が求められます。
また、上場企業ではIR対応の観点からも月次レベルでの収益情報の開示準備が必要とされるケースもあり、決算のスピードと精度は経営の透明性と信頼性を担保する要素となっています。一方で、非上場の中堅・中小企業においても、金融機関や取引先への報告資料として正確な数字を速やかに出せる体制整備は欠かせません。
3. 広告業界で進むシステム統合の背景
3.1 従来の業務システムとその課題
従来、広告業界では部門ごとにバラバラなシステムを導入し、営業、制作、経理がそれぞれ独立したワークフローで業務を遂行していました。たとえば、営業部門はExcelを利用して案件管理を行い、制作現場では進行管理表を紙ベースで記録、経理は別システムで請求・支払業務を処理するなど、情報の一元化が実現できていない状態が多くの企業で見受けられました。
このような業務フローでは、情報の追加・修正がリアルタイムで反映されず、部署間の連携ミスや二重入力、人的ミスの温床となります。また、案件ごとに収支を把握することが難しく、月次決算処理の遅延や経営データの分析精度の低下といった問題にも直結します。
3.2 CRM・SFA・会計ソフトの分断による弊害
広告代理店では、案件の初期段階から受注・納品・請求・回収まで、長期かつ多段階に渡るプロセスが存在します。しかし、顧客管理(CRM)、営業支援(SFA)、会計処理(会計ソフト)がそれぞれ別々のシステムとして稼働しているケースが多く、部門間の情報連携が滞る原因となっています。
このような分断状態においては、営業活動の進捗と請求のタイミングが一致しない、あるいは売上と原価が異なるタイミングで計上されるなど、正確な財務状況の把握が困難になります。また、外部へのレポート提出や社内経営層への報告においても、担当者が手作業でデータの突合や再集計を行う必要があり、大きな工数とリスクが発生します。
3.3 クラウド化とERP導入の流れ
近年、クラウドテクノロジーの浸透と共に、中堅・中小の広告代理店でもERPの導入が進みつつあります。広告業界においても、案件ごとに複雑な原価計算や下請けとの契約処理を伴うため、一般的なシステムでは対応しきれない部分が多く、業界特化型のクラウドERPの注目度が高まっています。
たとえば、プロジェクト管理、売上管理、請求書発行、原価集計を一元化できる広告業界専用のERPソリューションの導入により、リアルタイムでの経営数値の見える化と迅速な経営判断の実現が可能になります。また、クラウド型であることで、テレワークやリモートワークにも柔軟に対応でき、業務継続性の強化にも繋がっています。
ERPの導入においては、次のようなポイントが広告業界において重視されます:
導入要素 | 求められる特性 |
---|---|
案件別管理機能 | 広告案件単位での収支・納品・請求管理が可能 |
媒体・制作費処理への対応 | 仕入先との個別契約形態に即した支払い処理に対応 |
財務・会計連動 | 取引入力と同時に仕訳データが生成されること |
4. 月次決算業務におけるシステム統合のメリット
4.1 経理フローの自動化と透明性の向上
広告代理店では、紙ベースやExcel管理といった属人的な経理オペレーションが長年の慣習として続いてきました。しかし、これらの従来型の業務方式は入力ミスや集計漏れといったリスクを伴い、月次決算の締め作業を遅延させる要因となります。システム統合により、販売管理・請求処理・仕訳入力といった工程が連携されることで、経理フローが自動化され、人的ミスの排除や業務の可視化が可能になります。
また、クラウドベースの会計ソフトを導入することで、データの一元管理が可能となり、監査対応や内部統制の強化においても高い効果を発揮します。会計書類の改ざんや抜け漏れのリスクを回避し、業務の透明性が担保されるのです。
4.2 リアルタイムでの業績把握と経営判断の高速化
従来、広告業界では月次決算の集計に数週間を要し、その後の経営会議で報告・意思決定がなされるため、現場とのタイムラグが大きな課題となっていました。システム統合を行うと、業務データがリアルタイムで集約・更新され、経営層が即時に案件別収益・部門別収支をモニタリングできるようになります。
たとえば、販売管理システムと会計システムがAPI連携されている場合、受注や伝票発行のタイミングと同時に売上が会計システムに連動し、常に最新の収支データが確認できます。これにより、期中での予算対比やコスト分析が可能となり、立て直し施策の打ち手が早期に打てるようになります。
4.3 属人化の排除による業務標準化
業務プロセスが従業員個人のスキルや経験に依存する属人化は、業務リスクの温床となります。広告業界ではプロジェクト単位での売上・原価管理が必要ですが、個別案件の管理方法が社員ごとに異なるケースが多く、正確な月次決算情報の取得・処理に支障をきたしていました。
システム統合による業務プロセスの標準化は、業務の属人性を排除し、マニュアルベースで再現可能なフローを社内共通化する効果があります。これにより、異動や退職などに伴う業務引継ぎにも柔軟に対応でき、安定した決算処理体制の構築が実現します。
4.3.1 属人化排除による主な効果比較
課題項目 | 統合前 | システム統合後 |
---|---|---|
業務の属人性 | ベテラン社員依存 | マニュアル化・標準化により誰でも対応可能に |
正確な月次決算 | 集計漏れ・誤処理頻発 | 自動連携によりミス削減・精度向上 |
引継ぎ対応 | 情報が断片化・口頭ベース | システム上に統一された業務フロー記録 |
このように、月次決算業務におけるシステム統合は、単なるIT化ではなく、業務の根本的な構造改革となり、広告業界の競争力強化にもつながる重要施策といえます。競争環境の激化が続く業界において、スピーディーな意思決定と業務の再現性を担保する上でも、今後ますますシステム統合の重要性が高まるでしょう。
5. 中小広告会社におけるクラウド型システム連携例
東京都内に本社を構える従業員50名規模のクリエイティブ系広告会社F社では、従来Excelベースで管理していた請求処理・案件収支管理・経費精算などを見直し、広告業向け販売管理システム「ADMAN」を導入。Excel管理をADMANで一元管理をし、もともと使用していた財務会計システムと連携を行いました。
プロジェクトベースで動く同社のビジネスでは、案件別の原価がリアルタイムで可視化されることが課題でした。ADMANでは、案件ごとの売上・原価を1つのシステムで管理できるため、収支を数値化が可能です。またクラウド型システムのため、更新・閲覧もいつでも可能となり、リアルタイムの収支管理が実現できました。
財務会計システムへの連携により、売上・発注・支払・入金も反映され、月次決算早期化へとつながりました。
導入理由についてCFOは次のように述べています。
このように、中小規模でも現場の実態にあわせたローコストかつ柔軟なクラウドサービスを組み合わせることで、大手広告代理店にも劣らないレベルの業務統合と迅速な月次決算体制の整備が進んでいます。
6. 月次決算とシステム統合における導入プロセスとポイント
6.1 現行業務フローの見える化と課題整理
広告業界において月次決算とシステム統合を効果的に導入するためには、まず現状把握と業務フローの可視化が不可欠です。受発注から請求・入金、外注管理に至るまで、広告代理店特有のフローを網羅的に図式化し、どこに非効率や属人的な作業が潜んでいるのかを洗い出すことが重要です。
このステップでは、以下のような情報の整理が求められます。
項目 | 確認すべき点 |
---|---|
案件管理 | 営業情報と進行管理の分断有無、システム・Excel併用状況 |
発注・請求業務 | 外部パートナーや媒体社とのやり取り手段、二重入力の有無 |
月締処理 | 各部門ごとの締め作業のばらつき、経理負荷の集中状態 |
帳票出力 | 収支報告書の作成時間、分析と経営判断までのタイムラグ |
現場ヒアリングや操作ログの分析、数か月分の月次作業のシミュレーションなどを行い、課題を文書化して社内で共有することで、後工程における要件定義のベースを形成します。
6.2 ベンダー選定と要件定義の進め方
次のステップは、システム統合に向けたソリューション選定とプロジェクトの設計です。ここでは、広告特有の取引慣習や業界標準に対応できるパッケージかどうか、カスタマイズ性、将来のスケーラビリティも含めて総合的に判断する必要があります。
ベンダーとの打ち合わせでは、以下のような観点を重視します。
- 広告業界での導入実績・業務理解の深さ
- 媒体仕入・制作外注・タレント起用などへの対応度合い
- CRMやSFAとの連携が可能か(Salesforce等)
- クラウドベースでの運用可否と操作性
- 決算業務の自動仕訳・配賦処理の適合性
要件定義フェーズでは、最重要KPIとなる「プロジェクトごとの粗利」や「取引先別年間売上」など、経営判断に直結する指標を出力できるかどうかも明記してベンダーとすり合わせを行います。
6.3 社内教育と業務プロセス再構築の重要性
導入にあたっては、技術面だけでなく操作する人材の習熟度も不可欠です。業務の効率化を実現するためには、業務フローの再設計と従業員への浸透施策が並行して行われる必要があります。
主な施策には以下が含まれます。
- 現行フローと新システムの差分説明会の開催
- 部門ごとの教育マニュアルおよび操作手順書の作成
- バックオフィス(経理・庶務)担当者への分科会形式でのフォローアップ
- 試験運用(パイロット運用)による業務フローの事前検証
効果的な社内浸透の鍵は、「業務が変わるメリット」を明確に示すことです。たとえば、営業担当者が案件予算から着地粗利の見通しを一目で確認できる、あるいはアシスタントが請求処理を仕訳と連動させることで日次で締め作業に結びつけられるといった、部門ごとに具体的な利点を提示することが有効です。
また、研修は一過性ではなく、リリース後1か月・3か月・6か月での定着モニタリングと再教育の場を設けることで、定着率を向上させることが可能です。
7. まとめ
広告業界では、煩雑な月次決算業務や分断されたシステム環境が大きな課題でした。ERPやクラウド型ツールの導入により、経理フローの自動化や業務の標準化が進み、リアルタイムでの経営判断が可能となります。こうしたツールの導入や連携は、企業規模を問わず導入が広がっています。広告業での月次決算早期化やシステム連携についてご相談がございましたら、サイネット株式会社へお問い合わせください。
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